平和の船…か。
一体どういうことなんだ…
説明会では旅行の話しかしていなかったような気がするが
いや…まてよ
そういえば…司会者こんなこと言ってたな
世界一周クルーズは何隻か存在するが、外国人と交流できるのはうちだけ
外国人との交流がしたくて、うちを選んだ方が沢山いる…
だからうちのピースボートは特別である…
『外国行って奉仕活動するのかもね』
母「よく分からずに申し込んできたの?
平和っていうくらいだから
普通の旅行とは別になにかあるんじゃないの?」
『確かに…言われてみれば、世界一周とはいえ、ほとんどが海の上
そこでなにかあるのかもしれない』
後日
父親から本を渡された。
父「聞いたぞ、世界一周行くんだってな…。
全く…この大事な時期に…
よくこの本を読んで考えてみろ!」
渡された本は→2010年出版“希望難民ご一行様~ピースボートと「承認の共同体」幻想”
芸能人で東京大学院生の古市憲寿(ふるいちのりとし)がピースボートに乗った体験記
を書いたもので、表紙カバーには古市さんと本田由紀さんの写真、そして「現代に必要なものはあきらめだ」
と書かれている…。
もうこの表紙見ただけでも精神的に参ってしまいそうだ…。
勘弁してくれ…。
せっかく今世界一周したら人生変わるんじゃないかと
テンションが上がっていたところなのに
そんなものは幻想だ!あきらめろと言っているのだ…。
内容は→ピースボートに乗りたくなくなるほど
悲惨な内容が書かれていた。
・世界一周した船の長さは50~70mであったこと。
・機関がよく故障し海上で漂流、
アメリカで1か月待機させられることになり、
日本に帰ってくる日程が1か月延びる
・それによって予定がある社会人、老人は激怒、予定のない若者は喜ぶ
・それにより若者VS老人の抗争が始まる
・若者のマナーの悪さ
・朝に平和体操というピースボートが作った体操をやらされ
変な掛け声を発声させられた
・揺れることが多々あり、ゲロを吐く人が多く、トイレはいっぱいになり
体調不良者が多くでた。
など
この内容について船乗りの経験から見解を述べてみる。
まず、よく70m近くの船で世界一周したな…と
これで揺れない方が逆に凄い…。
学生の時の練習船は50mクラスだったが、富山湾を運航するだけでも縦揺れが激しく
船に慣れていない学生は、気分が悪くなって嘔吐する人が続出していた。
社会人になってから100~200mの船に乗ったが、そのサイズであれば
大きく揺れることは滅多になかった。
また、船業界では他から中古で購入するといったことも多く
ピースボートを作った人は恐らく
経済目的の船ではないことから、外国から中古で買った船に違いない。
船は20年近く経つと様々な所が壊れ始める
40年近くで廃棄、もしくは外国に売却されるのが一般的だ。
船は→揺れ、潮風、海流に当たっているのだから錆やすいし、衝撃を受けやすい
その為に1,2週間1回どこか故障したり不具合があったりして
乗組員で整備して直すなんてザラなのだ。
とはいえ、整備は余程のことがない限り運航中に行われるし、
乗組員が大変なだけでそんなに害はない
エンジンも故障することもあって
海上で漂流して直すこともある
とにかく…故障はつきものなのだ
故障して直して、故障して直して運航する。
これが船の世界なのである。
だから、いきなりエンジン音が止まった、海上に漂流しているというのは
客が騒ぐだけで、実際はたいした問題ではないのだ。
説明会では船の名前をオーシャンドリーム号と言っていた。
オーシャンドリーム号は長さ205m総トン数35000トン。
つまり、この古市さんが乗った70mの船と、今稼働している205mの
船は全く別物だっていうことが分かる。
個人的見解だが総トン数15000トンクラス以上になると揺れにくい。
また、説明会で司会者が、今稼働している船は
外国の豪華客船だったものを中古で購入して改造したものと言っていたのだから
スペックが悪いどころか
むしろめちゃくちゃスペックの良い船だっていうことが想像できる。
朝起きて平和体操をやらされたり、
平和的な事を学ばされるというのがあるが
船の世界では
乗組員は長期運航の為、交代交代で人が入れ替わることがあるし、
陸で事務⇔船に乗る
を繰り返し、船に乗るスタッフさんが毎回変わるというのが想像できる。
なので、たまたま平和を愛した不器用なスタッフさんが
熱意のあまり空回りした結果なのではないか!?
若者のマナーの悪さも学校ではないルールのない世界なのだから
注意や統制がとれないのも分からなくもない。
ましてや大人数の人間をまとめることは決して容易ではない!
だが、長い年月をかけて経験値を積み上げスタッフ内で情報を共有して
今は人間としてのマナーを自然に守れるような雰囲気作りができる
実力をつけている可能性も十分に考えられた。
この本は日本社会に幻滅し、自分探しの為世界一周をして変わろうとする若者が
期待外れで精神的にも肉体的にもショックを受け絶望すると書いてあるように見えるが
船乗りでなければ、この本を鵜呑みにして
納得させられてキャンセルしていたかもしれない…。
この本に書かれている世界と今ある世界は真逆の世界の可能性を示していた。
残念なことに本以外にもインターネットで
散々文句や愚痴が見受けられた
だが、スナック嬢の
「ピースボートめっちゃ良かったですよ!」
の
この言葉がどんな中傷な言葉もかき消した。
これらのことを説明し両親を説得
親友の中条、越川、野口にもバイクで日本一周を辞めて、世界一周に行くことを伝えた。
後日
世界一周まで3か月と時間があることから、就活を続けていた
母は、朝になっても起きてこない俺を起こしに部屋に入ってきた。
うっかり机の上に置きっぱなしにしていた求人票のコピーを見られてしまった…。
母「貴志!これってかなり条件の良いとこなんじゃない!?
これ受けなさいよ!!」
“8月、4月採用 各1名”
『………。』
『こんなときにこんなに良い就職先が見つかるなんて…』
次回:第04話 オプショナルツアーのご案内 に続く